緑の相談室


誰のため、何のための公園か
-田舎造園考-

東京農業大学造園科学科 近藤 三雄

 田舎においても、さまざまな名目で公園整備や緑化事業が行われる。今の時流から言えば、それらの事業においては、その整備目標(コンセプト)として、必ずと言ってよいほど、農村景観や田園風景の再生というお題目が掲げられる。関係者の間では至極当然という受けとめ方がされる。正々堂々と疑問の余地をはさむ者は誰1人いない。

 今般、山梨県の南アルプスのふもとに出来た「山梨県ほたるみ橋公園」が全米ランドスケープ協会の全米優秀賞を受けると言う。日本の農村の原風景を保存するため、棚田の田園風景を生かした設計が高く評価されたことも授賞の一因であると聞く。授賞そのものは誠におめでたいことである。恐らく今後、彼地を訪れる観光客にとっては、素晴らしい公園として賞賛されることになるであろう。(注、筆者の願望) しかしながら、その周辺に住む地元の人達の間では、どういう評価を受けるのか興味深い。日常、見慣れた景観と同様な公園に、どれだけの人が足を運ぶであろうか。

 この種の公園整備のやり方は、単なる都会人の郷愁、田舎には自然ぽい公園が似合うという思いこみの結果ではないかと素朴に疑問に思う。地元の人でどれだけ感激する人がいるだろうか。田舎の公園は都会人が観光旅行のついでに立寄るスポットではなく、本来、田舎の人が日常的に楽しむ空間であるはずである。田舎の人にとっては、今でも、その周辺に当り前に見られるような風景を矮小化、再生しても何も嬉しい筈はない。

 恐らく農村景観や田園風景を再生したような公園が都会のど真ん中につくられたならば、それこそ都会人の郷愁を呼び、大変な好評を博すものと思う。既に韓国のソウル市等では、町中に農村景観の断片をつくりだすような緑化事業が推進されている。

 来年で、わが国で初めての都市公園である日比谷公園が造営後、100年目を迎えようとしている。その間、全国各地に星の数ほどの都市公園がつくられたが、多くの公園があまり利用されていない実態にある。「おきまりの都会的な公園」をつくっても都会人は当り前、どこでも見る公園ということで新奇性も感じず、訪れる人はいなくなる。やはり公園は日常的な周辺景観とは異なる「異空間」でないと、その存在価値が発揮できないように思う。

 まだまだ自然の残る田舎にビオトープを計画しても誰も喜ばない。何故、大枚の予算をかけ、周辺に幾らでも残存するような空間を新たにつくらなければならないのか、税金の無駄使いと指弾されても致し方のないような取組みも多い。

 田舎の関係者に聞いてみると、田舎の人は近くに、その周辺では、あまり目にすることのないバタ臭い園芸植物が咲き乱れる、ちょっとしたイングリッシュガーデンやハーブガーデン風の空間ができると、休みの日には足しげく通うという。都会に住む専門家からすれば、田舎にその種の空間をつくることは農村や田舎の景観を台無しにする。ナンセンスであると指摘するのが、これまでの定石である。

 各地の田や畑の畦畔の修景にアジュガやシバザクラなど、色彩豊かなバタ臭いグラウンドカバープランツが多用されていることも都会の専門家は批判する。彼らは何故、農村景観にふさわしい在来種や郷土種の野草等を用いないのかと念仏のごとく唱える。アジュガやシバザクラなど周辺にないものを使うからこそ畦畔の緑化の意味があるのであり、周辺にある野草を導入するようなことは何もしないことと一緒なのである。この点を都会人の専門家は解っていないような気がする。

 筆者らも以前、園芸植物を多用した「ワイルドフラワーによる緑化手法」を山間地域や農村地域の耕作放棄地等に、その導入を奨めたところ、そんなもので農村景観を台無しにするのか、植生撹乱を招くなど、専門家から痛烈な批判を浴びた。しかしながら、地元の人からは大歓迎されたという実体験をもつ。

 昔から農家の庭先では、都会でも珍しい園芸植物が妍を競って来た。何となくミスマッチという感じもしないでもないが、彩り豊かな園芸植物の咲き乱れる光景が農家の庭先の定番となってきた。

 何故、農家の庭先に最新の園芸植物が植えられてきたかであるが、その訳はこうである。村の農家の家々へ物品を売り歩く行商人は、昔から各戸への手みやげとして都会の園芸店で入手した絵袋入りの園芸植物の種子を置いていき、それを農家の人達が珍しがって、庭先に播き、開花を楽しんだのが、農家の風景となった。農家の人達は、自分のテリトリーである庭先に周辺では見られない園芸植物の花を咲かせることに喜びを感じた。それで良いのである。

 田舎の公園もかくあるべきだと思う。農家の庭先の景観を見て、誰のため、何のための公園づくりであるかを再考しよう。  



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